キオクシア株75倍。心は動いたが、本当に掴んだ人は意外と少ない
キオクシア株がIPOから約75倍。SNSは盛り上がるけれど、それは最安値から最高値の理論値です。買値・売値・投下資金で恩恵は別物。インデックス投資家が数字に振り回されない理由を書きます。
キオクシアが75倍と聞いて、正直、心が動きました
先に白状します。SNSやネットの記事で「キオクシア株が75倍」というのを見て、心が動きました。
僕は2018年から投資信託しか買っていません。個別株は1株も持っていない人間です。それでも、こういう数字を見ると胸の奥がザワッとします。普通の会社員が一発当てて人生を変える。これは、インデックス積立をしている限り絶対に見られない夢です。
数字を確認してみます。キオクシアは2024年12月のIPOで、公開価格が約1,455円でした。それが2026年6月19日の終値で108,600円。ざっくり75倍です。今年だけで6割以上上がって、世界でいちばん上がった半導体メーカーになったそうです。
背景は生成AIです。AIのデータセンターには大容量のメモリが要る。キオクシアが作っているNANDフラッシュメモリの需要が爆発した。報道によると、今期の決算は売上が前年比37%増、営業利益にいたっては9割増の見込みだそうです。
ザワッとするのも、まあわかってもらえると思います。

でも、その「75倍」を本当に取れた人は何人いるのか
ここで僕の悪いクセが出ます。すぐ「で、本当のところは?」と考えてしまう。
75倍という数字、よく見るとちょっと変なんです。これは「いちばん安かった値段」と「いちばん高かった値段」を比べた数字です。つまり、IPOの1,455円で買って、108,600円まで一度も売らずに握り続けた人がいたら、その人は75倍。理論上は、です。
でも、そんな人が現実にどれだけいるでしょうか。
買う側で考えても、まずIPOで買えた人自体が少ない。当たれば、の世界です。そして仮に買えたとして、2倍になった時点で「もう十分」と利確する人がほとんどだと思います。3倍まで持てたらかなりの胆力です。10倍まで握れる人なんて、もう変態の域です(褒めてます)。
僕も個別株をやっていた頃は、ちょっと上がっただけでソワソワして、すぐ売っていました。たしか10万の利益が出ただけで小躍りしていた記憶があります。あの自分に「これ75倍まで持て」と言っても、絶対に無理でした。
だから「75倍になった銘柄」と「75倍の利益を手にした人」は、まったく別の話です。前者はたくさんいる。後者は、たぶん驚くほど少ない。
数字で考えると、夢はもっと現実的なサイズになる
ここで簡単な皮算用をしてみます。はい、これもExcelでやりました。
仮に、100万円をIPOでキオクシアに全部突っ込んで、75倍まで一度も売らずに握り続けたとします。すると7,500万円。たしかに、人生が変わる金額。
でも、現実の人間はこう動きます。
- 2倍で売る人:100万 → 200万(利益100万)
- 3倍まで握れた人:100万 → 300万(利益200万)
- 5倍まで握れた剛の者:100万 → 500万(利益400万)
ここまでで、もう7,500万とはぜんぜん違う世界です。しかも、これは「100万円を1銘柄に全額」という前提の話です。
現実に、自分の全資産を1つの個別株に賭けられる人がどれだけいるでしょうか。普通は怖くて、資産の一部しか入れられません。仮に資産の5%、50万円を入れて3倍になったとしても、利益は100万円。嬉しいですけど、人生は変わりません。
こう書くと夢のない奴だと思われそうですが、むしろ逆です。100万が200万になるだけでも、本当はすごいことなんです。ただ、それは「75倍」という見出しが約束してくれる金額とは、まったくの別物だというだけです。見出しの数字を自分の取り分だと錯覚した瞬間に、人は冷静さを失うんだと思います。
つまり「75倍」という数字が見せてくる夢と、実際に手元に残る金額は、何段階も差があるわけです。
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騒いでいる声が大きく聞こえるのは、取れた人だけが喋るから
それでもネットを見ていると、みんな取ったみたいに見えます。
これはたぶん、構造の問題です。取れた人は嬉しいから声を上げる。取れなかった人、途中で売った人、そもそも知らなかった人は、わざわざ「自分は乗れませんでした」とは言いません。
だから、タイムラインには成功談ばかりが流れてくる。実際には、その裏に「2倍で売って後悔してる人」「IPOで買えなかった人」「見てるだけだった人」が何十倍もいるはずなのに、その人たちは黙っている。
声の大きさと、実際の人数は、まったく比例していません。
このことを忘れると、「世の中みんな儲けてるのに自分だけ乗り遅れた」という気分になります。でも、それはたぶん錯覚です。実際に75倍を丸ごと取った人は、あなたが思っているより、ずっと少ない。
僕がキオクシアの話で学んだのは、銘柄の選び方でも売り時でもありません。数字だけに振り回されないこと。これに尽きます。
じゃあ今から買うのか、と聞かれたら
ここまで読むと「お前は結局、今から買うのか買わないのか」と思われそうです。答えは、買いません。
理由はシンプルで、今のキオクシアはPER(株価収益率)が約106倍もあるからです。ざっくり言うと、今の利益水準のままなら、株価のもとを取るのに100年以上かかる計算になります。逆に言えば、それだけ先々の成長があらかじめ株価に織り込まれている、ということです。この水準で勝負できるのは、たぶんプロの領域だと思います。僕みたいな素人が手を出していい数字じゃありません。
僕の中には、わりとはっきりした線があります。素人が個別株を買うなら、PERが30倍を超える銘柄には手を出さない。これは個別株でさんざん痛い目を見て学んだ、数少ないマイルールのひとつです。
仮に、です。もし遊びで少しだけ個別株を持つとしたら、僕が狙うのはむしろ逆です。PERが10倍以下で、まだ誰も騒いでいない、トレンドから外れたところにいる銘柄を黙って仕込む。みんながキオクシアに群がっている今、僕がやるとしたら、その反対側をこっそり拾う作業です。
キオクシアは、もう完全にトレンドのど真ん中です。つまり僕のルールでは、最初から対象外。心が動いても、自分のルールが「やめとけ」と言ってくる。これくらい線を引いておかないと、僕みたいなビビりはすぐ流されてしまうので。
それに、AI半導体の盛り上がりがいつか弾けたら、とは考えます。PER100倍超えが永遠に続くわけはありません。でも、そこを深くは考えないようにしています。当てにいったところで、どうせ当たらないからです。弾けようが続こうが、僕のインデックス積立は1円も変わらない。この「深く考えなくていい」が、インデックス投資のいちばん楽なところだと思っています。
それでも、夢が見られること自体が市場の魅力だと思う
ここまで散々「現実は厳しい」と書いてきましたが、最後にひっくり返します。
正直、「もし自分が買ってたら」という想像は、やっぱりしてしまうんです。同じ株式市場にいる立場なら、一発で人生が変わる可能性が、ゼロではない。その可能性に手が届く場所に自分もいる。そう思うと、ちょっとだけドキドキします。
そして、こういう夢が定期的に出てくること自体が、株式市場の魅力なんだと思います。宝くじと違って、ちゃんと実体のある企業の成長に賭けられる。たまにキオクシアみたいな怪物が現れる。それを横で見ていられるだけでも、この市場に居る価値はあると思っています。
夢を否定したいわけじゃないんです。むしろ逆で、夢があるから市場は面白い。

インデックスにも、時間をかけた夢がある
じゃあお前は指をくわえて見てるだけか、と言われそうですが、そうでもありません。
考えてみてほしいんです。S&P500だって、10年前、20年前から積み立てていれば、75倍とはいかなくても、かなりの恩恵を受けています。一発ではないけれど、時間をかけて静かに膨らんでいく夢が、インデックスにもちゃんとある。
キオクシアの夢が「数年で75倍」だとしたら、インデックスの夢は「20年で資産が何倍にもなって、気づいたら人生の選択肢が増えている」というタイプの夢です。派手さはありません。でも、握り続けるのに変態的な胆力は要らないし、1銘柄に全額賭ける怖さもない。
しかも、毎朝チャートに張りついて売り時を探す必要もありません。寝て、働いて、たまに口座を開いて「お、増えてるな」とつぶやく。その程度の関わり方で成立する夢です。僕みたいに本業がある人間には、これくらいの距離感がちょうどいいんです。
僕はこっちの夢を選んだ、というだけの話です。キオクシアを買わなかったことを、後悔はしていません。たぶん買えていないし、買えていても2倍で売っていたので。
今日もやることは変わりません。証券口座を開いて、いつもの3本に今月も積立されているのを確認して、また閉じる。キオクシアが100倍になろうが、僕の買付日は変わりません。
数字を見て心が動いた正直な気持ちと、「うらやましい」の本音は、Noteに書きました。
※株価・倍率・PERなどの数値は2026年6月時点の報道・公開情報に基づきます。この記事は個人の体験・見解であり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
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